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​次世代ブログ

音楽生成AIは日本の楽器を奏でられるか?現状と可能性

  • 執筆者の写真: UR
    UR
  • 3月31日
  • 読了時間: 10分

テキストを入力するだけで、まるで人間が描いたようなリアルな絵画やイラストを生み出す画像生成AI。ChatGPTのDALL-E3やStable Diffusion(ステーブルディフュージョン)、Midjourney(ミッドジャーニー)などの登場は、AIが生み出す表現の可能性に世界中を驚かせました。そしてそれらは、今なお進化し続けています。


では、音楽の世界ではどうでしょうか?AIが作曲したり演奏したりする技術も日々進化していますが、「日本の伝統楽器」、例えば三味線の粋な音色、箏の雅な響き、尺八の幽玄な調べなども、AIは自由に奏でることができるのでしょうか?


「AIでオリジナルの和風BGMを作りたい!」

「日本の楽器の音楽を取り入れたい!」

そんなニーズが高まる一方で、「日本の楽器に特化した音楽生成AIって、あまり聞かないな…」と感じている方もいるかもしれません。この記事ではそんな疑問に答えるべく、音楽生成AIの中でも『日本の楽器』に焦点を当て、その現状と未来の可能性を徹底調査しました!


日本の伝統楽器を演奏するロボットたち

目次


  1. AIが音楽を生み出す?急速に進化する音楽生成AIの世界

まず、音楽生成AIの分野が今、どれだけ盛り上がっているかを見てみましょう。AIは、大量の音楽データを学習し、そのパターンを解析することで、様々なジャンルやスタイルの新しい楽曲を自動で作り出す能力を飛躍的に向上させています。

市場規模も急拡大しており、ある調査では、世界の音楽生成AI市場は2030年には30億米ドル(約4500億円以上!)に達すると予測されるほど、その勢いは止まりません。この背景には、パーソナライズされた音楽体験への欲求や、動画・ゲームなどのデジタルコンテンツ制作における音楽需要の増加、そしてAI技術自体の目覚ましい進歩があります。


深層学習(ディープラーニング)や機械学習といった技術、特に最近では**大規模言語モデル(LLM)**の応用により、AIは単に音を並べるだけでなく、人間が演奏するような自然なニュアンスや表現力を持った音楽を生成できるようになってきています。「テキストtoミュージック」と呼ばれる、文章で指示(プロンプト)を与えるだけでAIがイメージに合った音楽を作ってくれる技術も登場し、音楽制作のハードルを大きく下げています。


音楽の生成方法も進化しており、従来のMIDI(楽譜のようなデジタル情報)ベースの方法に加え、拡散モデルなどの新しい技術によって、よりリアルで高品質なオーディオ波形そのものを直接生成することも可能になってきました。AIはもはや単なる模倣者ではなく、新たな創造性を秘めたパートナー、あるいはアーティストとなりつつあるのです。



  1. なぜ難しい?日本の伝統楽器とAIの課題

しかし、このように進化する音楽生成AIの世界でも、「日本の伝統楽器」となると、話は少し複雑になります。現時点では、三味線、箏、尺八、琵琶、和太鼓といった多種多様な和楽器の音色や旋律を、高いレベルで自在に生成できるAIは、まだ限られているのが実情です。その理由としては、いくつかの課題が考えられます。


  • データの偏りと不足

    多くの音楽生成AIは、主に西洋音楽の膨大なデータで学習されています。そのため、日本の伝統楽器の独特な音色、音階(五音音階など)、リズム、演奏技法(「間」の取り方、装飾音など)に関する学習データが相対的に少なく、AIがその特性を深く理解するのが難しいのです。

  • 音楽構造の違い

    日本の伝統音楽は、西洋音楽の和声や調性の理論とは異なる独自の構造や美学を持っています。これをAIが理解し、自然な形で生成するのは容易ではありません。

  • 表現のニュアンス

    尺八の息遣い、三味線の「さわり」の響き、箏の繊細なタッチなど、日本の楽器特有の微妙なニュアンスや表現力をAIで再現するのは、非常に高度な技術が求められます。

  • テキスト指示の難しさ

    「侘び寂びを感じさせる尺八のフレーズ」のような抽象的な指示を、AIが正確に音楽として表現するのは、現在の技術でもまだ難しい課題です。


これらの課題があるため、日本の楽器に特化した高性能な音楽生成AIの開発は、西洋楽器に比べてまだこれから、という段階なのです。もちろんAI開発の観点で見ても、『日本の楽器』に特化した開発者が少ないのも事実です。


  1. 日本の楽器 × AI:注目の研究・開発プロジェクト

とはいえ、日本の研究機関や企業も、この分野で興味深い取り組みを進めています。まだ「これを使えば完璧!」という段階ではありませんが、未来への可能性を感じさせる動きをいくつかご紹介しましょう。


  • M2M-Gen (東京大学)

    日本の漫画(マンガ)のシーンやセリフ、キャラクターの感情に合わせてBGMを自動生成する研究プロジェクト。直接的に伝統楽器に特化しているわけではありませんが、日本のコンテンツとAI音楽を結びつける先進的な試みとして注目されます。ここで培われた技術が、将来的に和楽器AIに応用されるかもしれません。

  • ヤマハ株式会社

    VOCALOID™で有名なヤマハは、AIによる楽器音のリアルな合成技術で世界をリードしています。サックスやトランペットなどの管楽器では、楽譜を入力するだけで人間らしい表現豊かな演奏をAIが生成する技術を開発済みです。現時点で和楽器への応用は公表されていませんが、彼らの持つ高い技術力が、いずれ日本の楽器にも向けられる可能性は十分にあります。

  • CREEVO (京都大学)

    日本語の歌詞を入力すると、メロディーと伴奏を自動生成してくれるAIシステム。文化進化の研究プラットフォームとして、ユーザー参加型で開発が進められています。日本の歌詞に対応している点は注目ですが、和楽器の使用や旋律の質については、さらなる情報が必要です。

  • FIMMIGRM (株式会社TMIK)

    ヒット曲をAIに学習させ、多様なメロディーやコード進行を自動生成する音楽作成サービス。「AI作曲家」を目指しているとされ、日本の企業による意欲的な取り組みです。こちらも、現時点での伝統楽器への対応は不明ですが、今後の展開に期待したいところです。


これらの研究やサービスは、まだ発展途上ながらも、AIが日本の音楽文化とどのように関わっていくのか、その未来を予感させてくれます。



  1. 今すぐ試せる?日本の楽器に対応したAIツールと代替アプローチ

じゃあ、今すぐ日本の楽器を使ったAI音楽生成は無理なの?と思うかもしれません。完全に理想通りとはいかないまでも、いくつか試せる可能性のある方法やツールが存在します。


日本の楽器向け?特化型ツールの可能性

例えば「Singify」は、和にインスパイアされた楽曲も生成できると紹介されています。ユーザーがテーマを入力したり、AIに任せたりすることで、和風のトラックを作成できるようです。次の簡単なプロンプトで、実際に試してみました。(三味線や箏、尺八、和太鼓といった日本の楽器で、伝統音楽を生成しなさい。テーマは和と未来。)

Create traditional music using Japanese instruments such as the shamisen, koto, shakuhachi, and wadaiko drums. The theme is harmony and the future.

*完成品


和音の未来 (1)

和音の未来(2)

どうでしょうか?

正直クオリティはそんなに高くはなく、やはり三味線などの日本楽器は反映されていません。しかし、リズムや和の雰囲気はどことなく感じられますね。ほかにも『Mureka』や特に『Suno』などの音楽生成AIのレベルは目を見張るものがあります。



こうしたツールの多くは、宣伝文句通りの品質や多様性が得られるとは限りません。生成される音楽の質や利用料金、無料版での制限など、実際に試したり客観的なレビューを参考にしたりして判断する必要があります。上級者には、一般的な音楽生成AIと「和楽器音源」を組み合わせる方法もあります。


  1. 一般的な音楽生成AIでメロディーを作る

    SunoMusicLM (MusicFX)、Stable Audioなど、テキスト指示(プロンプト)から音楽を生成できるAIツールを使って、まずは土台となるメロディーや楽曲構成を作成します。この際、「日本の音階で」「尺八のような雰囲気で」といった指示を加えることで、和風のニュアンスをAIに伝えられる可能性があります。

  2. MIDIデータで出力する

    生成した音楽を、可能であればMIDI形式(音楽の設計図のようなデータ)で書き出します。

  3. DAW(音楽制作ソフト)に取り込む

    Pro Tools、Logic Pro、Cubase、GarageBand、Studio One、Reaperなど、普段使っているDAWソフトにMIDIデータを取り込みます。

  4. 高品質な「和楽器音源ライブラリ」を適用する

    DAW上で、別途用意した高品質な日本の楽器の音源(サンプリング音源やソフトウェア音源)をMIDIデータに適用します。これにより、AIが作ったメロディーを、リアルな三味線や箏、尺八の音色で鳴らすことができます。

【高品質な和楽器音源ライブラリの例】

これらの音源ライブラリは有料ですが、非常にリアルで表現力豊かな日本の楽器サウンドを提供に期待できます。この「AI × DAW × 和楽器音源」という組み合わせは、少し手間はかかりますが、現状ではAIの作曲能力とリアルな和楽器サウンドを両立させるための有効なアプローチと言えるでしょう。ただし、AIが生成したメロディーが必ずしも日本の楽器の特性や奏法に合っているとは限らないため、DAW上で修正や調整が必要になる場合が多いと考えられます。


AIが奏でる和楽器サウンドの事例

実際にAIが日本の楽器を使って音楽を生成した例は、YouTubeなどで探すことができます。「AI Shamisen Music」や、Suno AIで作られた尺八の曲などが公開されており、AIが和楽器の音色をある程度再現できる可能性を示しています。これらの事例を聴いてみるのも、AIの実力を知る上で参考になるでしょう。



  1. AIが生み出す「和」の音楽:品質と評価の難しさ

AIが作った日本の楽器の音楽、その「良し悪し」はどう判断すれば良いのでしょうか?一般的なAI音楽の評価では、音質が良いか、指示(プロンプト)通りの雰囲気になっているか、曲としての一貫性があるか、創造性があるか、などが基準になります。しかし、「日本の伝統音楽」となると、さらに特別な評価軸が必要になります。


  • 真正性:日本の伝統的な音階(平調子、雲井調子など)や旋律の動き、リズムパターン、楽器の使われ方が、どれだけ「それらしく」再現されているか。

  • 自然さ:機械的でなく、人間が演奏しているような自然な響きや「揺らぎ」があるか。

  • 「間(ま)」の感覚:日本音楽で重要とされる、音と音の間の静寂や呼吸感が表現されているか。


最終的には、やはり日本の伝統音楽に詳しい人が聴いて、「これは確かに和の響きだ」「心地よい」と感じられるかどうかが重要になります。AI音楽のコンテストなどでは、専門家による審査も行われており、今後、こうした評価の基準もより洗練されていくでしょう。


情報収集のヒント:コミュニティとリソース

この分野はまだ新しいため、情報収集も重要です。AI音楽生成に関するオンラインフォーラムやSNSコミュニティ(Reddit、Discordなど)では、日本の楽器に関する情報交換が行われていることがあります。また、先ほど紹介した東京大学や京都大学のような研究機関の発表や、音楽情報処理系の学会などに注目するのも良いでしょう。日本の伝統音楽や音楽技術に関する専門機関や団体が、AIに関する情報を提供している可能性もあります。



  1. 結論:日本の楽器とAIの未来

『音楽生成AI 日本の楽器』の現状を調査した結果、残念ながら、現時点では DALL-E3 のようなレベルで、多種多様な日本の伝統楽器の音色や旋律を、誰もが高品質かつ自由に生成できるAIモデルは普及していないと言えます。しかし、悲観する必要はありません。一般的な音楽生成AIと高品質な和楽器音源を組み合わせるという実践的なアプローチは存在しますし、誰でも利用できる音楽生成ツールもたくさんあります。そして何より、AI音楽生成技術そのものが、今まさに驚異的なスピードで進化しています。将来的には、


  • 日本の楽器の膨大なデータセットが構築され、AIがその特性を深く学習する

  • 日本の音楽理論や美学を理解したAIモデルが登場する

  • 尺八の「かすれ」や三味線の「さわり」のような繊細なニュアンスまで再現可能になる


といった未来が訪れるのは時間の問題でしょう。日本の伝統楽器を用いたAI音楽生成はまだ始まったばかりの、可能性に満ちたフロンティアです。現状のツールで試行錯誤しながら、これからの技術の進歩に期待し注目し続けることが、新しい音楽表現を探求する上で重要と言えるでしょう。


いつの日か、AIが奏でる本物の「和」の響きに、誰もが手軽に触れられる時代が来るかもしれません。良くも悪くも、その未来はもはや避けられません。


 

△特別情報△

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