〜警察・検察の権力濫用と証拠捏造が浮き彫りにする未解決事件の恐怖〜

目次
1. 冤罪が晴れた再審の意義とその背景
2024年9月27日、静岡地方裁判所は、58年前の静岡市清水区で発生した一家4人殺害事件において、死刑が確定していた袴田巌さんの再審で無罪判決を言い渡しました。裁判長は、現場近くのみそタンクから発見された「5点の衣類」に付着した血痕の赤みや、強制自白に至る取り調べの非人道的な実態を指摘し、捜査機関による証拠捏造の疑いを明確に認めた。これにより袴田さんの冤罪が晴れたことは、司法の過程における不正の深刻さと、権力濫用に対する社会の関心を呼び起こしました。
2. 真に注目すべきは「真犯人は不明」である点
多くのメディアや論評は、袴田さんの冤罪が晴れたこと、そして検察側による証拠捏造の悪質さに焦点を当てています。しかし、本来最も重要な問題は「真犯人は誰なのか?」という点にあります。
検察という最高機関の信頼性の崩壊
最高権力機関である検察が、自らのメンツや組織的な圧力のもと、強制自白や証拠の捏造を行った事実が裁判で認定されたことは、司法制度全体の信頼性に大きな疑問を投げかけます。
事件の本質的な未解決性
袴田さんの無罪が確定した今も、事件の真犯人は未だに不明のままです。捜査機関が捏造に及んだ背景には、真犯人の存在を隠蔽するための内部事情や、真相究明を後回しにする構造的な問題が潜んでいる可能性も否めません。
権力と証拠捏造のリスク
警察や検察もまた人間であり、その権力が盾となって不正行為が行われやすい現実は、今回の事件が単なる冤罪事件ではなく、未解決事件としての深刻な構造問題を内包していることを示唆しています。
3. 検察・捜査機関の証拠捏造とその影響
裁判所は、次の3点の捏造事実に基づき、袴田さんに無罪判決を言い渡しました。
捏造①唯一の自白調書
判決では、警察による取り調べについて逮捕されてから19日間、深夜までに及ぶ1日平均12時間もの長時間の取り調べが連日続いたと認めた。更には、
・自白しなければ長期間勾留すると告げて心理的に追い詰めたり
・取調室に便器を持ち込んで用を足すよう促したりするなど
辱的で非人道的な対応をしたと指摘し、検察官の取り調べについても「袴田さんが自白するまで警察署で警察官と交代しながら証拠の客観的状況に反する虚偽の事実を交えて犯人と決めつける取り調べを行っていた」と述べた。
捏造②「5点の衣類」
事件発生から1年2か月後、現場近くのみそタンクから血痕のついた袴田さんの衣類が見つかり、過去の裁判で有罪の決め手とされていた。再審でも、血痕の赤みが残っていたことが不自然かどうかが最大の争点となっていた。
判決では、検察側と弁護側がそれぞれ行った実験の結果や専門家の見解などをもとに「1年以上みそに漬けられた場合、血痕の赤みが残るとは認められない。『5点の衣類』は、事件から相当な期間がたった後、袴田さん以外の者によってみそタンクに入れられた」と指摘しました。
そして、当時の裁判で袴田さんが無罪になる可能性が否定できない状況だったことから、捜査機関が有罪を決定づけるためにねつ造に及んだことが現実的に想定できると判断した。
捏造③ズボンの切れ端
警察が実家を捜索した際に見つかったとされる「5点の衣類」のズボンの切れ端。この証拠は「5点の衣類」が袴田さんのものだという根拠の一つとされていた。
判決では「捜査機関によって持ち込まれるなどした事実が推認され、捜査機関によってねつ造されたものだ」と判断した。その理由として、
・みそなどでぬれて固くなったズボンと実家にあった切れ端が同じ生地、同じ色だと判断するのが難しいのに、警察官がその場で同じだと判断したこと
・警察官が捜索の前に実家を訪れていたことなどをあげ
「警察官として不自然さを通り越した不合理な捜査活動だ」批判とした。
これらの事実は、検察側が事件解決のために、あるいは自身らの権威維持のために証拠を操作したことを示しています。すなわち、証拠捏造の結果、袴田さんという無実の人物が50以上の長年にわたり刑罰の脅威にさらされ、真実の解明は二の次とされたということです。
4. 真犯人不明という恐怖
袴田事件において最も恐ろしいのは、袴田さんの無罪が確定したにもかかわらず、事件の真相、すなわち真犯人が未だ明らかにされていない点です。しかもその特定はもはや不可能でしょう。
未解決の犯罪の恐怖
事件の真相が不明のままでは、同様の犯罪が再発するリスクが高まるとともに、被害者遺族や社会全体に不信感を植え付けることになります。
権力乱用の連鎖
警察・検察の証拠捏造が明るみに出たことで、事件の本来の真相究明が後回しにされた可能性が顕になった。権力濫用が続く限り、真犯人の追及は難航し、未解決事件として残る危険性が否めません。
社会全体への影響
司法の根幹を揺るがすこの事件は、国民に対して「司法もまた人間であり、完璧ではない」という現実を突きつけ、公共の安全や法の支配に対する信頼を大きく損なう結果となっています。
5. 袴田事件が示すモノ
袴田事件の再審で無罪判決が言い渡されたことは、冤罪を晴らす重要な成果であると同時に、証拠捏造や強制自白など、捜査機関による不正の危険性を浮き彫りにしました。しかし、最も憂慮すべきは「真犯人は不明」という点です。
たとえ冤罪が晴れても、事件そのものの解決がなければ社会は根本的な不正と未解決の恐怖に晒され続けることになります。
検察や警察といった権力機関も、権力の重圧や組織内部のメンツ維持のために、証拠捏造などの不正行為に走るリスクがあることを、今回の事件は改めて明確に示しました。
司法の信頼回復と同時に再発防止のためには、真犯人追及を含む事件の全体像の徹底解明が求められ、捜査体制の透明性や内部統制の強化が急務であるといえるでしょう。
袴田事件は冤罪が晴れる一方、未解決事件としての深い闇を残し、私たちに司法制度の限界と権力濫用リスクについて問いかけています。事件の真相究明、そして真犯人の解明がなされることこそが、真の正義と社会の安全を確保するために、今後の大きな課題であると言えます。
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