「訴訟詐欺(そしょうさぎ)」とは、民事裁判を悪用し、原告が意図的に証人に偽証させたり偽造文書を用い、又は当事者と原告が口裏を合わせ共謀し、裁判所から有利な判決を得て、相手方(被告)から強制的に財産や財物等を不正詐取する行為を指します。通常の詐欺とは異なり、実際に騙された相手(裁判所)と被害者(被告)が異なるのが特徴の、三角詐欺の一種です。また、司法手続を舞台に行われるため、手口の悪質性や巧妙さが問題視されるケースも少なくありません。
以下では、訴訟詐欺に関する法的リスクや代表的な例、実際に筆者が現在進行形で遭遇している訴訟詐欺のケースを挙げつつ解説します。

目次

1. 訴訟詐欺の基本的構造
(1)“詐欺”と“訴訟”の融合
一般的な詐欺罪(刑法246条)では、欺罔(ぎもう)行為によって被害者を錯誤させ、財産を交付させる行為が問題となります。一方訴訟詐欺では、この“欺罔行為”が直接の被害者(被告)ではなく、裁判所に対して行われます(上記構成図参照)。「裁判所が誤った事実認定や判断をする」よう誘導することが本質です。結果として、判決や強制執行など正当な権利行使に見える形で、財産や権利を不当に得る点が、通常の詐欺とは異なる特徴です。つまり成立した場合、詐欺被害が正当化された挙句、事実上法律的にも合法化される、という深刻な詐欺です。
(2)典型的な手口
偽造書類・偽証:契約書や支払明細、領収書などの偽造文書を証拠として提出し、本来存在しない債権を立証する。
虚偽の陳述・証言:原告側の当事者や証人が事実を大きく歪曲して証言し、裁判所を意図的に錯誤させる。
審理手続の妨害:相手方が十分な反証を行えないように工作し、実質的な反論の機会を封じる。欠席裁判の利用など。
2. 法的評価と刑事処罰
(1)詐欺罪の成立要件
訴訟の手段を使ったとしても、結局は「財物(または財産上の利益)の不法領得」を目的として他人を欺罔する点で、刑法上の詐欺罪(刑法246条)が問題となります。裁判所や公的手続を介するからといって罪が免除されるわけではなく、むしろ悪質性が高いと判断されやすいのが特徴です。また、裁判所が錯誤されず結果的に未遂に終わった場合でも、詐欺未遂罪(刑法250条)が成立します。※訴訟詐欺であると立証するのは困難ですが...。
(2)文書偽造罪・偽証罪との関連
裁判手続で他人を欺くために偽造文書を提出したり、証人尋問等で虚偽の証言を行ったりする行為は、それぞれ刑事罰の対象になり得ます。例えば、
私文書偽造罪・公文書偽造罪(刑法第155条~161条など)
書類そのものを偽造し、あたかも真正な書類であるかのように行使する行為。請求債権をでっち上げるための借用書偽造などが典型例です。
偽証罪(刑法第169条)
証人尋問等で意図的に虚偽の陳述を行う行為。共謀して第三者を“証人”として擬制し、裁判所を誤信させるような事例がこれに該当します。
これらが組み合わさって行われる場合、裁判所の判断を意図的に歪めて有利な判決を得る手口が成立しやすくなります。複数人が共謀して嘘をつくことは、客観的に司法作用を見誤らせる重大な行為で、決して許されるべき行為ではありません。結果として誤った事実認定がなされ、被告の財産や権利が不当に奪われるなどの被害が生じる可能性があります。
(3)不法行為責任:民事上の責任
詐欺的手段で取得した判決に基づいて財産を得た場合、被害者は判決の取消(再審)や不当利得返還請求、損害賠償を検討できます。さらに、加害者に対して慰謝料や損害賠償を請求することも可能です。
3. 訴訟詐欺の具体例
架空債権による請求訴訟
存在しない貸金債権を、偽造の借用書や振込記録で「証明」し、被告不在や相手の認否不足を狙って勝訴判決を得る。判決が確定すれば、強制執行により相手方の口座や財産を差し押さえることが可能となる。
偽造の領収書・覚書を使った慰謝料請求
交通事故などで実際には発生していない治療費や休業損害を“水増し”し、裁判で主張。審理が適切に行われず、相手方の反論が不十分だと裁判所が信用してしまうことも。
共謀による証人尋問の虚偽証言
第三者を「証人」として仕立て上げ、法廷で虚偽証言をさせる。これにより裁判所が偽の事実認定をしてしまい、加害者が有利な判決を得る。
4. 防止策と注意点
(1)早期反論と証拠保全
原告が提出する書類や証拠が事実とは異なる捏造又は明らかに疑わしい点がある場合、速やかに弁護士へ相談し、反証となる証拠等を保全・提出することが重要です。被告側の不在や準備不足が続くと、例え被害者であっても「冤罪」に近い形で罪や責任を負わされ、訴訟詐欺が成立しやすくなるリスクがあります。なお、訴訟詐欺は詐欺同様に立証が困難で、例え弁護士といえども、詐欺師の巧妙さや組織性によっては対抗できないと判断される事もあります。その場合も、勿論警察や裁判所も全く動いてはくれず、完全に自己責任となります。
(2)裁判所のチェック機能
裁判官や書記官は、提出書類の真正性や証人の信用性を慎重に検討しています。ただし、実際の裁判実務では事件数が多いため、なかなか十分なチェックが行き届かないこともあり、日本の司法では「当事者主義」が採用されているのが現状です。その為、原告の偽証や偽造に基づき、そのまま不正義が実行され敗訴する可能性が常に隣り合わせです。
(3)弁護士の役割
弁護士は、事実関係の調査や証拠の評価に基づいて「不自然」や「矛盾」を迅速に指摘し、訴訟詐欺を食い止める最前線として機能します。訴訟詐欺の被害に遭った場合、弁護士のアドバイスを受けることが早期解決へ繋がる一方、弁護士の腕によって結果は大きく左右します。

5. まとめ
訴訟詐欺は、裁判手続という公的機関を悪用し、不正な利益を得る極めて悪質な行為です。通常の詐欺と異なり、判決や強制執行という「法的手段」を装って行われるため、被害者が泣き寝入りしやすい構造的な危険性をはらんでいます。これは法制度そのものの信頼を損なう深刻な問題として、断固として厳正厳格な対処が求められています。
もしあなたが、原告の主張や証拠に不自然な点を感じた場合、とりわけ原告の主張が全くの出鱈目などであった場合、放置せず速やかに専門家と連携して訴訟詐欺の可能性を検討することが重要です。また、裁判手続においても、提出書類や証人の信憑性を丁寧に確認する姿勢が求められるでしょう。
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