AIが描く『ジブリ風画像』著作権は?訴訟リスクと法的問題点
- Renta
- 4月6日
- 読了時間: 12分
「まるでジブリの世界!?」
「この写真、一瞬でジブリ風アニメみたいになった!」

SNSを見ていると、最近、そんな驚きの声と共に、人気アニメスタジオ「ジブリ」を彷彿とさせる、美しくノスタルジックなイラストを目にする機会が増えていませんか?これらは、ChatGPT-4oをはじめとする画像生成AIが、ユーザーの指示(プロンプト)や元の写真に基づいて作り出したものです。誰でも簡単に、あの大好きな「ジブリ風」の世界観を再現できる…。それは、とても魅力的で楽しいトレンドかもしれません。
でも、ちょっと待ってください!これって、著作権的に本当に大丈夫なのでしょうか?あのスタジオジブリが、自社の独特なスタイルをAIに安易に模倣されることを、黙って見ているでしょうか?もしかしたら、OpenAIのようなAI開発企業に対して、スタジオジブリが訴訟を起こす…なんて可能性もあるのではないでしょうか?
この記事では、今まさに話題となっているAIによる「ジブリ風」イラスト生成を巡る、
スタジオジブリ(特に宮崎駿監督)のAIに対する考え方
そもそも「絵のスタイル」は著作権で守られるのか?
AI開発側(OpenAI)のポリシーはどうなっている?
海外でのAIアートに関する訴訟の状況
そして本題…スタジオジブリが訴訟を起こす可能性
について、法律や技術の側面も踏まえながら、分かりやすく徹底解説していきます。AIとクリエイティブの未来を考える上で、避けては通れない問題です。
目次

なぜ人々は惹かれる?AIが生み出す「ジブリ風」という魔法
ChatGPT-4oなどの最新の画像生成AIは、単にリアルな画像を生成するだけでなく、特定の「画風」や「スタイル」を驚くほど巧みに模倣する能力を持っています。その中でも、スタジオジブリ風のスタイルは、多くのAIユーザーによって試され、SNSなどでハッシュタグと共に拡散されたりして、大きなトレンドとなっています。
なぜ、これほどまでに「ジブリ風」AIイラストは人々を魅了するのでしょうか?それは、スタジオジブリ作品が持つ、手描きならではの温かみ、柔らかな色彩、ノスタルジックで少し不思議な世界観が、多くの人々の心に深く刻まれているからでしょう。
AIを使えば、自分の好きな写真やキャラクター、あるいは全く新しい風景を、あの憧れの「ジブリの世界」の一部であるかのように、魔法のように変換できてしまう。その手軽さと、再現度の高さが、多くの人を惹きつけているのです。
ジブリの”魂”はどこへ?宮崎駿監督の発言
一方で、このトレンドをスタジオジブリ自身、特に共同創業者の宮崎駿監督は、どのように感じているのでしょうか?実は宮崎監督は、過去にAIが自動生成した(不気味な動きをする)キャラクターのアニメーションを見た際、「生命そのものへの侮辱だと感じます」「こんなものを自分たちの仕事に決して取り入れたいと思わない」と、極めて強い不快感と嫌悪感を表明していた事があります。
この発言からは、人間の手によって、時間と感情を込めてキャラクターに命を吹き込む「手描きアニメーション」に対する、ジブリの(そして宮崎監督の)強い信念と哲学がうかがえます。効率性や技術の新しさよりも、人間の創造性、感情、そして生命の尊厳を何よりも大切にする。それがジブリ作品の根底にある”魂”なのかもしれません。
そんな彼らにとって、AIが自社の作品スタイルを安易に模倣し大量生産することは、単なる著作権の問題を超えて、芸術的な信念に対する挑戦、あるいは冒涜とさえ感じられる可能性があります。現在のところ、この「ジブリ化」トレンドに対して、スタジオジブリからの公式なコメントは限定的です(過去に流れた偽の法的警告については否定声明を出しています)。OpenAIとの提携なども確認されていません。しかし、水面下ではこの状況を苦々しく思っている可能性は十分に考えられます。
【参考:宮崎駿監督のAIアニメーションに関する主な発言(2016年)】
発言内容(要約) | 示唆されること |
「生命そのものへの侮辱だと強く感じる」 | AIによる表現への強い倫理的・哲学的な嫌悪感 |
「自分の仕事に取り入れたいとは思わない」 | 手描きアニメーションと人間の創造性への強いこだわりと信念 |
「極めて不愉快」「気分が悪い」 | 技術への単純な興味関心ではなく、生理的なレベルでの拒否反応 |
ジブリ風画像「スタイル」は著作権で守れない?(日米比較)
では、法的な観点から見るとどうでしょうか?AIによる「ジブリ風」イラストの生成は、著作権侵害にあたるのでしょうか?ここには、著作権法の基本的な考え方と、国による違いという、少しややこしい問題があります。
著作権の基本ルール:「アイデア」ではなく「表現」を守る
著作権法が保護するのは、具体的な**「表現」(例:特定のキャラクターのデザイン、映画の具体的なシーン、ストーリー展開)であって、その根底にある「アイデア」や「コンセプト」、「画風(スタイル)」そのものではありません。これを「アイデア・表現二分論」と言います。つまり、「ジブリっぽい雰囲気の絵」というスタイル自体は、原則として著作権の保護対象にはなりにくい**、というのが一般的な考え方です。トトロやナウシカといった具体的なキャラクターを無断でAIに生成させれば著作権侵害になりますが、「なんとなくジブリっぽい風景画」であれば、直ちに違法とは言えない可能性が高いのです。
アメリカと日本の違い:AI学習データの扱い
もう一つ重要なのが、AIが学習する際の元データ(トレーニングデータ)の扱いです。画像生成AIは、インターネット上などから膨大な数の画像を学習して、特定のスタイルを身につけます。この学習データに、著作権で保護されたジブリの画像が含まれていた場合、どうなるのでしょうか?
アメリカの場合:現在、AIの学習データに著作権物が無断で使われたとして、多くの訴訟が起きています。「フェアユース(公正な利用)」にあたるかどうかが争点ですが、まだ裁判所の最終的な判断は出ていません。訴訟のリスクは存在します。
日本の場合:日本の著作権法は、2018年の改正により、AI開発のための学習用データの収集・利用については、著作権者の許可なく、比較的広く認められています(非享受目的利用)。つまり、AIがジブリの画像を学習データとして使っていたとしても、それ自体が直ちに著作権侵害とはみなされにくい、という**世界的に見てもかなり「AIフレンドリー」**な法制度になっているのです。
侵害を証明する難しさ
たとえAIが生成した画像がジブリの作品に「そっくり」だったとしても、著作権侵害を証明するのは簡単ではありません。「元になった作品(学習データ)にアクセスして、それを基に創作した(依拠性)」ことと、「表現が具体的に酷似している(類似性)」ことの両方を立証する必要がありますが、AIの複雑な生成プロセスを考えると、これを法廷で証明するのは困難な場合があります。
このように、特に日本の法律下では、AIによる「スタイル模倣」自体を著作権侵害として訴えるのは、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。
【日米著作権法の比較(AIとスタイル関連)】
特徴 | アメリカ | 日本 |
AI学習データの著作物利用 | 著作権侵害の可能性あり (フェアユースが争点、訴訟多数係属中) | 原則として許可 (非享受目的、著作権者の利益を不当に害しない場合) |
芸術的スタイルの保護 | 基本的に保護対象外 (ただしトレードドレス等で保護の可能性あり) | 基本的に保護対象外 (アイデア・表現二分論) |
AI生成物の著作権侵害 | 派生作品とみなされる可能性あり、類似性・依拠性の立証が必要 | 類似性・依拠性の立証が必要 (スタイル模倣のみでは困難か) |
AI開発側の言い分は?OpenAIの著作権ポリシーと限界
では、ChatGPT-4oなどを開発しているOpenAIは、この問題についてどう考えているのでしょうか?OpenAIの利用規約では、ユーザーが規約を守って生成した画像については、原則としてユーザーが所有権(商用利用権を含む)を持つとしています。
つまり、「あなたが作ったジブリ風画像は、あなたのものですよ」ということです(ただし、著作権そのものがAI生成物に認められるかは別の議論があります)。
一方で、他者の権利を侵害するような使い方(例:特定のキャラクターの無断生成)や、なりすまし、有害コンテンツの生成などは明確に禁止しています。当初、OpenAIは特定のアーティスト名をプロンプトに含めることを許容していましたが、批判を受けて、現在は**「生存するアーティスト」のスタイルを模倣するような指示に対しては、画像を生成しないようにする(拒否トリガー)**といった対策を導入しています。しかし、ここにも問題があります。
「スタジオジブリ」のような、個人名ではない「スタジオのスタイル」は、この拒否トリガーの対象外となっている可能性があります。
ユーザーは、少しプロンプトを工夫すれば、容易にこれらの制限を回避できてしまうのが現状です。
ポリシーの適用も一貫していない場合があり、何がOKで何がNGなのか、基準が曖昧な部分も残っています。
OpenAIは、ユーザーの創造性を尊重しつつ、著作権問題にも配慮しようとしていますが、そのバランス取りは非常に難しく、現状の対策ではアーティストやスタジオ側の懸念を完全には払拭できていないと言えるでしょう。
他人事じゃない!AIアートを巡る世界の訴訟リアル
AIによる画像生成と著作権の問題は、すでに世界中で現実の法的紛争に発展しています。特に注目されているのが、Stability AI(Stable Diffusionの開発元)、Midjourney、DeviantArtといった画像生成AIサービスに対して、複数のアーティストがアメリカで起こした集団訴訟です。
原告であるアーティストたちは、「自分たちの作品が、許可なくAIの学習データとして使われ、その結果、自分たちのスタイルを模倣した『派生作品』が大量に生み出されている。これは著作権侵害だ!」と主張しています。これらの訴訟はまだ進行中であり、最終的な判決は出ていませんが、AI開発における学習データの扱いや、AI生成物が著作権法上の「派生作品」にあたるのかといった、根本的な論点が争われています。
また、大手報道機関であるニューヨーク・タイムズも、自社の記事がChatGPTの学習に無断で使用されたとして、OpenAIを提訴しています。これらの訴訟の行方は、今後のAIと著作権の関係性を占う上で、極めて重要です。たとえ現時点では明確な判例がなくても、AI開発企業にとっては、無視できない法的なリスクが存在することを示しています。
【本題】スタジオジブリはOpenAIを訴えるのか?
さて、ここまでの情報を踏まえて、本題である「スタジオジブリがOpenAIを訴える可能性」について考えてみましょう。
【訴訟を起こす「かも」しれない理由】
宮崎監督の強い信念
AIアニメーションを「生命への侮辱」とまで断じた宮崎監督の芸術的信念からすれば、スタイルの安易な模倣は到底受け入れがたいはずです。
ブランド価値の毀損
「ジブリ風」イラストが大量に、かつ粗悪な形で出回ることで、スタジオジブリが長年かけて築き上げてきた唯一無二のブランドイメージや価値が損なわれる(希薄化する)ことを懸念する可能性。
海外での訴訟トレンド
他のアーティストや企業がAI企業を訴えている現状を見て、「我々も行動すべきだ」と判断する可能性。
世論の支持
もしジブリが訴訟に踏み切れば、多くのファンやクリエイターからの支持が集まる可能性。
【訴訟は「難しい」あるいは「しない」かもしれない理由】
日本の著作権法の壁
前述の通り、日本の法律ではAI学習データの利用が広く認められており、「スタイル」自体の保護も弱いため、著作権侵害で勝訴するのは非常に困難と予想されます。
侵害証明の難しさ
AI生成物が具体的にどの作品を基にしたのか、著作権侵害にあたるほどの類似性があるのかを法的に証明するのは難しい。
OpenAIの対策(不十分だが)
一応、生存アーティストのスタイル模倣を制限する動きは見せている。
訴訟コストと時間
国際的な訴訟となれば、莫大な費用と時間がかかります。
ファンの反発リスク
AIで「ジブリ風」を楽しむファン層からの反発を受ける可能性もゼロではありません。
他の戦略の可能性
訴訟ではなく、OpenAIとの協議、あるいは自社でのAI技術活用(例えば、過去作品の修復など?)といった別の道を選ぶ可能性。本業である映画制作に集中したいと考える可能性。
【総合的な評価】これらの要因を総合的に考えると、スタジオジブリが強い道義的・芸術的な憤りを感じている可能性は高いものの、特に日本の著作権法の下で、OpenAIに対して著作権侵害訴訟を起こし、勝訴することは現時点ではかなり難しいと言わざるを得ません。
ただし、アメリカなど他の国においては、著作権侵害ではなく、例えば**「商標権(トレードドレス)」**、つまり「ジブリ風」というスタイルが、スタジオジブリの商品やサービスを示す独自の「外観」として認識されており、それをAIが無断で使用することで消費者に混同を生じさせている、といった不正競争の観点から訴える可能性は、わずかながら残されているかもしれません。

AI時代の創造性と権利~私たちが考えるべきこと
AIが生成する「ジブリ風」イラスト。その著作権を巡る問題は、スタジオジブリが実際に訴訟を起こすかどうかに関わらず、私たちに多くのことを問いかけています。
現在の法制度、特に日本の著作権法は、AI技術の急速な進化に必ずしも追いついていない側面があります。「スタイル」は保護されない、「学習データ利用」は原則OK… この状況が、本当にクリエイターの権利を守り、文化の多様性を育む上で適切なのかどうか、社会全体で議論していく必要があるでしょう。
一方で、私たちユーザーも、AI画像生成ツールを使う際には、その便利さや楽しさだけでなく、背景にある著作権や倫理の問題にも目を向ける必要があります。特定のアーティストやスタジオのスタイルを安易に模倣し、それを商業的に利用したりすることは、たとえ現行法で直ちに違法とは言えなくても、クリエイターへの敬意を欠く行為と見なされる可能性があります。
AIは、私たちの創造性を拡張する強力なツールです。しかし、その使い方を誤れば、オリジナルの価値を毀損し、文化の土壌を痩せさせてしまう危険性も孕んでいます。技術の進歩と創造性や権利の保護とのバランスをどう取るか。スタジオジブリとAIの問題は、まさにAI時代の大きな課題を私たちに突きつけているのです。今後の法整備や、AI開発企業の動向、そして私たち自身の意識の変化が、その答えを形作っていくことになるでしょう。
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