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地球外生命を示唆する甘いアミノ酸「グリシン」の歴史

更新日:8月12日

グリシンを含む隕石

目次


19世紀初頭:ゼラチンからの発見

グリシンは1820年にフランスの化学者アンリ・ブラコノーによって発見されました。彼はゼラチンを硫酸で加水分解する過程で、甘味を持つこのアミノ酸を分離することに成功しました。1848年にはスウェーデンの化学者ベルセリウスによって、ギリシャ語で「甘い」を意味する "glykys" に由来し「グリシン」と名付けられました。


発見者と命名者が違うのはなんで?

グリシンの発見はアンリ・ブラコノーですが、命名したのはスウェーデンの化学者イェンス・ベルセリウスです。ブラコノーは発見当時、ゼラチンを加水分解して得られた物質に「 sucre de gélatine (ゼラチンの糖)」と名付けました。しかし、これは厳密には糖ではなくアミノ酸であったため、ベルセリウスが1848年に「glycine(グリシン)」と改名しました。


このように、物質の発見者と命名者が異なるケースは科学史においてしばしば見られます。発見者は物質の存在を初めて明らかにする重要な役割を果たしますが、命名者はその物質の特性や由来を考慮して適切な名前を与えることで、科学界における共通認識を確立する役割を担います。



20世紀:宇宙からの発見と生体内での役割解明

1969年、宇宙からやってきたマーチソン隕石からグリシンが発見され、地球外生命の存在の可能性を示唆する物質として注目を集めました。その後、生体内でのグリシンの役割が徐々に解明され神経伝達物質やコラーゲン合成、睡眠の質改善など、様々な機能を持つことが明らかになったのです。


マーチソン隕石は1969年9月28日、オーストラリアのビクトリア州マーチソン付近に落下した隕石です。炭素質コンドライトに分類され、太陽系形成初期の情報や生命の起源に関する手がかりを持つと考えられています。


落下と回収

落下時には火球が目撃されその後、約13平方キロメートルの範囲に複数の破片が落下しました。回収された隕石の総重量は約100kgで最大のものは7kgでした。一部の破片は民家の屋根を突き破るなど、落下時の様子が詳しく記録されています。


特徴と分析

マーチソン隕石は始原的な隕石であり、太陽系形成初期の物質を比較的多く含んでいます。1970年代から現在に至るまで世界中の研究機関で分析が行われています。これまでに70種類以上のアミノ酸や、糖類、核酸塩基など、生命の構成要素となる有機物が発見されています。特に、グリシンなどのアミノ酸は地球上の生命が利用するものとは異なる光学異性体を持つものが多く含まれており、地球外起源である可能性が高いと考えられています。また、2020年には地球上で発見された中で最古の固体物質(約75億年前の星間塵)が含まれていることが報告されました。


意義と影響

マーチソン隕石は生命の起源に関する研究に大きな影響を与え、地球上の生命が宇宙から飛来した有機物によって誕生したという説を支持する証拠の一つとされています。また、太陽系形成初期の情報を解明する上でも重要な資料となり、現在もマーチソン隕石の分析から新たな発見が期待されています。


アミノ酸研究所の美女職員

現代:食品・医薬品分野での広がり

現在、グリシンは食品添加物(調味料、甘味料)として広く利用されています。また、医薬品分野では、統合失調症や睡眠障害の治療薬としても研究が進められています。さらに、グリシンの持つ抗炎症作用や筋肉増強効果に着目し、サプリメントとしての需要も高まっています。


  1. 呈味性:淡白でさわやかな甘味と旨味を持ち、味をまろやかにします。

  2. 緩衝作用:食品のPHを調整し酸味や苦味を和らげます。

  3. 酸化防止:食品の酸化を防ぎ品質保持に役立ちます。

  4. 抗菌作用:一部の細菌の増殖を抑え、食品の日持ちを向上させます。

  5. 静菌効果:加熱での殺菌が難しい菌(耐熱性芽胞菌)の増殖を抑えます。


具体的な使用例

  • かまぼこ:弾力性や保水性を向上させる

  • ソーセージ:結着性を高め、食感を良くする

  • 漬物:酸味を和らげ、風味を良くする

  • 清涼飲料水:甘味料やPH調整剤として

  • スポーツドリンク:運動後の疲労回復を助ける


グリシンは安全性の高い食品添加物として、厚生労働省によって認可されています。しかし、過剰摂取は体に悪影響を与える可能性があるため適量(1%)を守ることが大切です。


地球外生命の存在を示唆する天体


グリシン研究の未来とまとめ

グリシンの研究は現在も活発に行われており、その多岐にわたる機能性から今後さらに応用範囲が広がることが期待されています。例えば、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に対する治療効果、美容分野でのアンチエイジング効果など、様々な可能性が秘められています。


グリシンは19世紀初頭の発見以来、その甘味と多様な機能性から食品・医薬品分野において重要な役割を果たしてきました。今後の研究によって、グリシンのさらなる可能性が解明され、私たちの生活を豊かにする新たな製品やサービスが生まれることが期待されます。

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