近年、CRISPRやmRNAワクチンをはじめとするバイオテクノロジーは、医療革新のみならず、社会全体の在り方に大きな影響を及ぼす技術として急速に進展している。一方、技術の進歩とともに「デュアルユース」の懸念や、誤用・事故によるバイオハザードリスクも指摘される。また、一部の男(私)のロマンともいえる「人類VSゾンビ」というシナリオも、映画や文学で語られるのみならず、科学的・合理的な根拠に基づいて将来的なリスクとして検討する価値がある。本稿では、2025年の最前線にある海外の研究動向を概観するとともに、もしもの場合に備えたリスク管理の必要性についてまとめている。
デュアルユースとは?
デュアルユース(Dual use)とは、軍事と民生の両方に利用できる技術や製品、サービスを指し、戦争兵器もデュアルユースに含まれる可能性があります。例えば、
液晶ディスプレーや合成繊維などの商用技術が兵器に用いられる
ラップやティッシュペーパーにはもとは軍事用だった技術が使われる
弾道ミサイル技術が宇宙ロケットに応用される
軍事目的に開発されたGPSが民生用途に転用される
民生用途で開発された人工知能(AI)や工作機械が軍事目的に転用される
デュアルユース技術は、情報技術(IT)、航空宇宙技術、バイオテクノロジーなどの分野で応用範囲が広く、軍事利用と民生利用を完全に分けることは困難です。そのため、技術がもたらす利益とリスクの適切な管理が重要となっています。

目次
1. 海外バイオテクノロジー最前線の動向
(1)遺伝子編集技術(ゲノム編集)の革新
近年、CRISPR-Cas9をはじめとする遺伝子編集技術は、がん治療や希少疾患の治療法開発において飛躍的な進展を遂げている。これにより、個々の患者に合わせたオーダーメイド医療が現実味を帯びつつある一方、遺伝子改変の誤作動が予期せぬ生体機能の変容を引き起こす可能性も否定できない。また、CRISPR技術の応用により、細胞の再プログラミングや組織再生の研究も進展しており、これらは医療分野のみならず、将来的なバイオロジカルリスクの源泉ともなりうる。
(2)mRNA技術と合成生物学の発展
新型コロナウイルス感染症対策として普及したmRNAワクチンは、短期間での治療薬開発という面で世界的に成功を収めた。この成功例は、感染症以外の分野への応用、たとえばがん免疫療法や希少疾患治療への展開を後押ししている。他方、合成生物学の分野ではウイルスや細胞の機能を人工的に再設計する試みが進行中であり、研究室レベルでの「バイオハザード」リスクの管理や、国際的な安全基準の整備が急務となっている。
(3)国家戦略と国際規制の動向
サウジアラビアをはじめ、各国はバイオテクノロジー分野の発展を国家戦略の一環として推進しており、ワクチン製造やゲノミクス研究、植物最適化技術などに重点を置いた政策が打ち出されている。これらの動向は、技術革新がもたらす恩恵と同時に、国際的な安全管理体制の再構築の必要性を示唆している。

2. ゾンビ化の可能性―科学的根拠と合理的考察
(1)ゾンビという概念の再検討
「ゾンビ」とは一般に、死後に再活性化した存在として描かれるが、ここでは「人間の意識や行動がウイルスや遺伝子改変により著しく変容し、従来の自己制御能力を喪失する現象」を意味する。実際、狂犬病ウイルスなど一部の感染症は、攻撃性や混乱を引き起こす点でゾンビ的要素を持つとされている。さらに、もし先端バイオテクノロジーの実験が不測の事態に陥り、神経系の働きを阻害するウイルスが誤って放出された場合、被感染者の前頭葉などの高次認知機能が破壊され、感情や理性が著しく低下する可能性が理論上あり得る。
(2)遺伝子編集のリスクとバイオハザード
CRISPR技術による遺伝子改変は、正確かつ効率的である反面、ターゲット以外の遺伝子にも影響を及ぼす「オフターゲット効果」が問題視されている。この現象が神経細胞に起こった場合、予期せぬ行動異常や攻撃性の増大が誘発されるリスクが存在する。こうしたリスクは、いわゆる「ゾンビ化」といった極端な事態とは異なるものの、バイオハザードとしての潜在性を内包していると言える。
(3)合成生物学とデュアルユースのジレンマ
合成生物学の分野では、ウイルスや細菌を改変して新たな治療法を開発する一方で、その技術が軍事利用やテロリズムといった悪用に転じるリスクが指摘されている。もし、こうした技術が意図せずして神経毒性の高い物質の生成に結びついた場合、広範囲に感染が広がるシナリオ―いわば「人類がゾンビ化する」という極端な未来を想起せざるを得ない。この点において、技術の進展と倫理的・法的規制とのバランスが極めて重要となる。
3. 人類VSゾンビ:男のロマンと未来への警鐘
(1)映画・文学に見る「人類VSゾンビ」の魅力
ゾンビを題材とした作品は、しばしば「男のロマン」として、荒廃した世界でのサバイバルや、ヒーローが仲間を守り抜く姿、人間の本質を題材に描く。しかしその背後には、現実のバイオテクノロジーがもたらすリスクと、それに対する社会の備えが反映されている。映画『バイオハザート』や『ワールド・ウォーZ』に見られるようなゾンビ現象は、単なる娯楽ではなく、万が一の事態に対する人類の対応力を問う寓話的な側面をも持つ。
(2)科学的根拠に基づく未来予測
現実において、技術の誤用や事故により、神経系に甚大なダメージを与えるバイオテクノロジー製品が誤って流出するリスクはゼロではない。こうしたリスクが現実化した場合、感染拡大に伴い、人間の行動パターンが根本的に変容し、まるでゾンビのような状態―すなわち自我や理性の喪失、集団行動における無秩序な振る舞いが引き起こされる可能性がある。これを「バイオハザード・ゾンビシナリオ」と呼ぶならば、現代社会における安全保障政策や研究機関の責務は、単なる医療技術の発展に留まらず、このようなシナリオを未然に防ぐための厳格なリスク管理へと拡大する必要がある。
4. 今後の展望と対策
(1)技術進展と倫理・法制度の整備
バイオテクノロジーの急速な進展は、私たちに多大な恩恵をもたらす一方、未知のリスクも孕んでいる。国際的な共同研究や、各国政府による厳格な規制・監視体制の構築は、万一のリスクに対する抑止力として機能する。特に、サウジアラビアなどが打ち出した国家戦略のように、技術の発展と同時に国際的な安全管理体制の再構築が求められている。
(2)社会全体でのリスクマネジメント
実際のゾンビ化シナリオは極めて低いものの、COVID-19パンデミックが示したように、予期せぬ感染症の流行は社会に甚大な影響を及ぼす。加え、その感染拡大は容易には防げない。したがって、万が一のシナリオを前提とした緊急対応計画(BCP)や、科学的知見に基づくリスク評価は、いずれも現代社会にとって不可欠な要素である。また、技術者や研究者のみならず、一般市民に対してもバイオテクノロジーのリスクとその対策を啓蒙する取り組みが重要となる。

5. 結論
現代のバイオテクノロジーは、医療革新や環境保全、農業の効率化など、多岐にわたる分野で劇的な進展を遂げている。しかし、その裏側には、技術の誤用や不測の事態により、人間の神経系に甚大な影響を与える可能性というリスクが潜んでいる。いわゆる「ゾンビ化」という極端なシナリオはフィクションでありながら、その発想は、技術進展に伴う倫理的・法的問題と、万が一のバイオハザードに対する備えの重要性を象徴している。技術の恩恵を享受する一方で、国際社会が協力して厳格なリスク管理体制を構築することこそが、未来に向けた最善の対策であると結論付けられる。
この考察は、最新の海外研究動向(michiganjp.org、prnewswire.com)や、既存のゾンビ概念(sonaeru.jp)を踏まえ、技術革新の恩恵とリスクの両面を論理的に検討したものである。技術の進展と安全保障のバランスを如何に保つかが、未来の鍵となるであろう。
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