私たちが住む宇宙は唯一無二のものだと考えられてきましたが、近年の物理学では「マルチバース(多元宇宙)」という概念が注目されています。アニメドラゴンボールや海外ドラマ・映画などでも、マルチバースの存在はしばしば描かれます。この理論は、私たちの宇宙の外側に複数の宇宙が存在し、それぞれが異なる物理法則や条件を持つ可能性を示唆します。
本記事では、マルチバース理論の主な仮説とその根拠について、わかりやすく解説していきます。

目次
マルチバース理論の起源と発展
マルチバース理論の起源は、宇宙論と量子力学の発展にあります。1920年代にエドウィン・ハッブルによって宇宙の膨張が発見され、1960年代には宇宙背景放射(CMB)が確認されました。これによりビッグバン理論が広く受け入れられるようになりましたが、宇宙の始まりや構造をより詳細に説明するために新たな理論が求められるようになりました。
その中で提唱されたのが、複数の宇宙が同時に存在するというマルチバース理論です。
インフレーション理論と泡宇宙モデル
1980年代に提唱されたインフレーション理論によれば、宇宙はビッグバンの直後に指数関数的な膨張を経験しました。この膨張過程は局所的に停止する一方で、他の領域では無限に続き、それぞれが独立した「泡宇宙」として存在すると考えられています。
この泡宇宙モデルでは、各宇宙は異なる物理定数を持ち、それによって多様な現象や生命の形態が生まれる可能性があります。

例①:想像してください。ビッグバン直後、あなたが一気に膨らむ風船に入っているとします。この風船は非常に速いスピードで膨張し、全体が急激に広がっていきます。しかし、風船全体が一様に膨らむわけではなく、ある部分は急に膨らむのを止め、また別の部分はどんどん膨らみ続けるのです。その結果、風船の中には大小さまざまな「泡」ができあがります。
この「泡」は、まるで独立した小さな宇宙のようなものです。各泡(宇宙)は、それぞれが異なる「ルール」や「物理定数」を持っており、たとえばある泡は星や惑星が生まれやすい環境、別の泡は全く異なる現象が支配する世界となる可能性があります。
例②:お湯が沸騰している鍋を想像してください。鍋の中で次々と小さな泡ができ上がりますが、それぞれの泡は形や大きさが異なり、内部で起こる現象も微妙に違っています。
これが泡宇宙モデルのイメージです。
量子力学の多世界解釈
量子力学における「多世界解釈」は、観測されるすべての結果が並行する宇宙で同時に実現しているという考え方です。例えば、シュレーディンガーの猫の思考実験では、猫が生きている宇宙と死んでいる宇宙が同時に存在するとされます。この理論は、観測によって確定される現象を説明するだけでなく、複数の宇宙の共存という概念を裏付けるものとして注目されています。
宇宙定数の微調整問題
私たちの宇宙では、物理定数が生命の存在に都合の良い値を持っています。この「微調整問題」を説明するために、無数の宇宙が存在し、その中で生命が生まれる条件を満たした宇宙だけが観測者を持つとする「人間原理」が提唱されています。これにより、生命が存在するのは単なる偶然ではなく、マルチバースの中の一つの宇宙であると考えられるのです。
私たちの宇宙では、重力の強さ、電磁気力、素粒子の質量など、さまざまな物理定数が、生命が誕生するために「ちょうど良い」値になっています。もしこれらの定数がほんの少しでも違っていたら、星も惑星も存在できず、生命が育つ環境もなかったでしょう。この「微調整問題」を理解するために、無数の宇宙が存在するという考え(マルチバース理論)を使います。
つまり、無数のくじ引きのように、異なる宇宙がそれぞれ異なる設定で誕生していると考えるのです。その中で、生命が存在できる条件を満たした宇宙だけが、観測者―つまり私たち―を持つことができるという考え方が「人間原理」です。
例えば、宝くじを想像してください。数百万枚のくじの中で、ほんの数枚しか当たらないのは当然です。私たちが住んでいる宇宙は、まさにその「当たりくじ」のようなものであり、他の無数の宇宙はまるで外れくじのように存在しているという考え方です。だからこそ、生命が存在するのは偶然ではなく、私たちが観測できる宇宙は「幸運な」条件を持っているというわけです。

マルチバースの存在を示唆する現象
一部の科学者は、宇宙背景放射(CMB)の異常や重力波の観測などがマルチバースの存在を示唆する証拠になる可能性があると考えています。特に、隣接する宇宙が衝突した痕跡がCMBに残っているかもしれないという仮説があります。しかし、これらの現象を完全に証明するにはさらなる研究が必要です。
未来の展望と科学的課題
現時点では、マルチバースの存在を直接観測する方法は存在しませんが、量子力学や宇宙論の進展により、将来的には新たな証拠が見つかるかもしれません。次世代の望遠鏡や粒子加速器によって、宇宙の構造や初期状態に関するさらなるデータが得られることが期待されています。
マルチバース理論は、宇宙の始まりや存在の意味を新たな視点で考える機会を提供します。インフレーション理論、量子力学の多世界解釈、宇宙定数の微調整問題など、多くの科学的根拠がこの概念を支持していますが、現段階では仮説の域を出ていません。今後の研究によって、私たちが住む宇宙が無数の宇宙の一つであるという壮大な真実が明らかになるかもしれません。
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