訴えられた側(被告)として裁判に臨むとき、まず直面するのが「答弁書の作成」です。答弁書は、原告から提示された請求原因を認めるか否か、あるいはどのように争うかを示す重要な書面となります。弁護士に依頼せず自ら訴訟を行う「本人訴訟」の場合、手続きや法律用語への理解が不足していると、適切な反論ができず、思わぬ不利益を被る可能性もあります。
また、よく弁護士ドラマなどでありがちな口頭による答弁などはあまり意味がありません。裁判では書面が極めて重視され、裁判所は書類をもとに事実認定を行います。裁判で書面を重視する理由としては、以下があります。
裁判官は多数の事件を抱えているため、口頭で聞いたことを覚えていられない
訴訟中に裁判官が異動で交代してしまうことがよくあるので、形に残らない口頭での説明はあまり意味を持たない
書面を作成せずに「法廷で否定すればいい」などのような考えは通用しません。そこで今回は、被告がやるべき答弁書の作成手順やポイントについて解説します。

目次
1. 答弁書とは何か
「答弁書」とは、原告からの訴状に対して被告が自分の意見や主張を正式に表明するための書面です。民事訴訟では、訴状を受け取った後、裁判所から指定される期限(通常は第1回口頭弁論期日まで)に提出することになります。なお、答弁書を提出しないまま訴状を無視すると自動的に敗訴するので絶対にやめましょう。
主な目的
請求原因に対する認否:原告の主張する事実関係や法律上の請求を認めるか、否定するかを明確に表します。
自らの主張・事実関係の提示:原告の主張が事実と異なる場合や法的に問題がある場合は、被告としての正当な理由を列挙し、具体的な事実を提示する必要があります。
2. 答弁書作成の基本的な流れ
訴状の内容を把握:原告が主張している「請求の趣旨(何を求めているのか)」「請求の原因(なぜ請求しているのか)」を読み解き、事実関係と法律上の問題点を整理します。
認める部分と争う部分の区分:原告の言い分のうち、認めざるを得ない事実と争いたい事実を切り分けます。争点を明確にするため、どこに争いがあるのかを意識しましょう。
反論や反証を検討:法的な主張をはじめ、事実面でも相手の主張を覆す材料(証拠や証言など)がないかを洗い出します。
答弁書を作成:争点や証拠の内容を踏まえながら、認否と反論を整理し文書化します。
答弁書の書き方に明確な決まりはありませんが、裁判所が提供している書式テンプレートなども存在します。争いの内容もシンプルで簡易的なものであれば、裁判所のテンプレートに記載するのが楽かもしれません。
自身で作成する場合は、実際の答弁書も参考にし、フォントサイズ目安は12ポイント、片面印刷、縦書きなどの最低限のポイントは意識し、以下の記載を満たしましょう。
①事件番号・事件名
②当事者等(原告・被告など)
③作成年月日
④裁判所名
⑤送達場所
⑥請求の趣旨に対する答弁
⑦請求の原因に対する答弁
⑧被告の主張の書き方
⑨添付書類
3. 答弁書に記載すべき内容とコツ
冒頭:事件番号・当事者情報:裁判所から送付された訴状等に記載の事件番号を転記し、自分(被告)や原告の氏名・住所など当事者情報を間違いのないように記載します。
原告の主張に対する「認否」:
事実のうち、真実と認める部分は「認める」と書きます。
争いのある部分は「否認する」「知らない(不知)」などの表現を用い、簡潔に事実関係の誤りを指摘します。
事実を否認する場合、可能であれば「否認する理由」も併記すると、裁判官にわかりやすく伝わります。
法的主張(抗弁):
原告の請求に法的な誤りや要件の欠落がある場合、具体的にどのような点が問題になるかを示します。例えば、「時効による消滅」「債務不存在」「契約の無効・取消し」など、自分に有利な法的主張がある場合はここで展開します。
結論・申立て:
「原告の請求を棄却する」など、裁判所に対して具体的にどのような判断をしてほしいのかを明示します。
書き方のコツ:
事実と意見を混同せず、主張したい事実とそれに基づく評価(意見)は区別して書く。
余計な感情論は避け、簡潔かつ論理的に裁判官や相手方が読みやすいように整理しましょう。
文中で「別紙○○号証のとおり」「後述の証拠○○」などと記載し、どの証拠がどの主張を裏付けるのかを示すと効果的です。
4. 証拠の準備と提出方法
証拠の種類
書証(文書・領収書など)
物証(物理的な証拠)
証人尋問(必要に応じて証人を裁判所に呼んで事実関係を証言してもらう)
証拠の提出タイミング
通常、口頭弁論の前後で裁判所に提出します。提出するときは「証拠説明書」を添付し、証拠番号を割り振って整理しましょう。
証拠の関連づけ
自分の主張にどの証拠が関係しているのかを明確に示すことが大切です。口頭での説明と書面での説明を合わせることで、裁判官が判断しやすくなります。

5. 答弁書提出後の流れ
第1回口頭弁論への出席
答弁書を提出した後、裁判所が指定した期日に出廷し、主張の確認や今後の進め方を打ち合わせます。本人訴訟の場合、弁護士に代わってすべて自分で対応する必要があります。
証拠調べ・主張の追加
必要に応じて追加書面を提出し、反論・証拠提出を繰り返します。相手方の主張に対してさらに反論の余地があれば、書面で再度主張を深めることも可能です。
判決または和解
双方の主張・立証が出揃うと、裁判所は判決を言い渡します。場合によっては和解という形で当事者間の合意が成立することもあります。
6. まとめ
本人訴訟において答弁書を作成する際は、訴状に書かれた原告の主張を的確に整理し、認める部分と否認する部分を明確に区別することが重要です。さらに、法的観点からの反論(抗弁)や関連する証拠の提示を怠らないようにしましょう。慣れない裁判手続きゆえ手間やリスクもありますが、必要な知識をしっかり学び、論理的・計画的に対応することで自分の権利や利益を守ることができます。
もし不安や疑問点がある場合は、法テラスや法律相談を活用し、必要に応じて弁護士のアドバイスを受ける選択肢も検討しましょう。裁判は人生でそう頻繁に経験するものではありませんが、ルールや流れを理解し、しっかり準備することで、より有利な結果を目指すことが可能となります。
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